神酒口(みきぐち)は一対の御神酒徳利に挿して、お正月に飾られます。昔は、神棚のある家にはたいてい神酒口が供えられていました。
正月、家々に迎えて祀る歳神様は、豊作の守り神であり、正月様とも呼ばれています。神酒口はその歳神様へお供えするものというのが本来の意味です。
「青森県の神酒筋について」 會田 秀明
神酒口については、雑誌『民蛮』の326号(昭和55年2月号)に岡村吉右衛門氏が神酒口覚書として調査報告を載せている。
それによると青森県は青森市に竹製(彩色)のもの七種、下北にヒバ経木製と記載されている。
写真は青森市の三ツ玉(一頁参照)と一ツ玉が掲載されている。
この記事を参考に、現況を調べてみた。
幸いに青森市内では今も作られ年末に店で売られていることが判った。竹製の宝章の玉 (一ツ玉)、サンガイマツ三重松 (三階松のこと)、松竹梅、宝船は大、中、小があり計六種である。
現在は見本がないので三ツ玉は作らないというが、見本があれば作ってもらえるようだ。そうなると調査報告の七種が揃うことになる。
下北郡の神酒筋は川内町(現在はむつ市)で作られたヒバ製のものであるが残念ながら絶えたようだ。前に作られたものが今でも飾られているという話である。
またヒバ経木製のものは十和田市にもあったようで、相馬貞三(元青森県民芸協会会長)の収集品の中に十和田市と書かれた箱に入っているヒバ経木製の神酒筋がある。昭和四十年−五十年代のものではないかと思われるが、どこで手に入れたかは不明である。
青森県では神酒口のことを神酒筋という。これは津軽地方、南部地方の別なくいわれている。神酒口は『日本の民具・第二巻農村』(昭和40年8月10日発行)によると、神酒スズのクチとなっている。「神酒スズとは神酒を入れて神に供える小さい徳利のこと。その口に竹などの飾りを挿(略)」。
現在の神酒口はスズが省略されたと思われる。青森県の神酒筋はスズがスジとなまり、漢字の筋が当てられ、クチは省略されたと考えられる。
青森市の神酒筋は市内に住む四十代の瀧澤克哉・結花ご夫妻によって作られている。瀧澤さんの話によると曽祖父は群馬県から来た人であり、群馬で覚えたと言っていたそうである。岡村氏の調査報告では群馬県前橋市の竹製のものは絶えたことになっている。この青森市の神酒筋が前橋市にあったものと同じかどうかは今のところ判らない。
神酒筋の作り方が曽祖父から祖父に受け継がれ、父は早く亡くなったので瀧澤さんは祖父から教わったという。年末にかけて一千セットぐらい作り、青森市、弘前市、五所川原市、黒石市や八戸市、下北地方で売られているとのことである。
材料の竹は青森県では南部地方の一部でしか成育しないため岩手県南で栽培されている真竹を取り寄せて使っている。竹を細く割る前の芯棒を作る作業が大変という。
柳宗悦は神酒口について、『手仕事の日本』 の中で、「神酒口も民間の品として顧るべきものでありましょう。(略) 御神酒口徳利に差す飾り物で、竹を縦に細かく裂いて、平たく模様風に結んだものであります。よく宝船や宝珠玉などを現しますが、巧みな技なのに驚きます」と書いている。
神酒口は新しい年がよい年になりますようにとの願いと祈りの心から捧げられているように思う。
最近は人々の信仰心が薄れて、神棚を祀っている家が少なくなり、神酒口の需要が減っているという。あちこちで絶えているのもそのためかもしれない。
(あいだ・ひであき 青森県民芸協会会長)
※會田さんから許可を得て「民芸」2007年1月号より転載しました。