「異貌」第22号 発刊のお知らせ

「異貌」第22号

追悼の辞………………………………………………佐々木藤雄  3
安行期の社会について………………………………飯塚博和   7
追悼文………………………利根川章彦・菅谷通保・江原英
大塚達朗・鈴木徳雄                    15
埼玉県白川型石斧の再検討…………………………岡本孝之   31
鱗状短沈線文土器に関する覚書……………………百瀬忠幸   65
松本平における縄文中・後画期の様相……………桐原 健   77
南久和氏へ答える……………………………………小林謙一   86
捏造事件と埋蔵文化財を結ぶもの…………………山村貴輝   90
広瀬和雄『日本考古学の通説を疑う』を疑う……佐々木藤雄  105
飯塚博和氏年譜・著作目録………………………………………… 125
編集後記……………………………………………………………… 132


 
追悼の辞

 考古学的な方法を大きな核としながら、参加する個々人の自由な視点と主体的な立場からの共同体論の根源的な索求を模索する共同体研究会が発足をみたのは、学問的営為のもつ意味がなお真剣に問われていた一九七三年八月のことであった。翌一九七四年九月には待望の会誌も創刊され、既成の固定化された常識や観念が封印してきた歴史の新しい像、異形の相貌を照射する『異貌」は、一時的な休刊をはさみながらも、この二〇〇四年で二二号の刊行にまで漕ぎつけることになった。この間、『異貌』に掲載されることになった論文は約一二〇編、執筆者は三〇名以上にのぼり、同様の志をもつ多くの雑誌が発刊、あるいは廃刊される中で、いささかの貢献を共同体論に果たしてきたものと自負する。
 その共同体研究会のもっとも古くからの同人であり、本会の発展をつねに先頭に立って支えられてきた飯塚博和さんが、研究会の結成からちょうど三〇年目にあたる昨二〇〇三年七月六日、五一歳という若さで亡くなられた。梅雨空から時おり降り落ちる雨が紫陽花の花叢を濡らす、薄暑の日であった。
 飯塚さんが東京信濃町の東医健保会館を舞台に行われた共同体研究会の第一回例会に参加されることになったのは一九七五年の五月、ちょうど明治大学を卒業された頃であった。岡本孝之さんの「第三の縄文文化」と題された縄文文化解体論・停滞論批判が発表された学史的にも重要な意義をもつ本例会において、飯塚さんは縄文、弥生文化両者を透視する視点から岡本報告に鋭い問題提起を繰り返し試みられた。この時のコメントをもとにまとめられたのが、同年十一月の『異貌』第三号に掲載された、「安行期の社会について」と題する飯塚さんの『異貌』最初の論文であった。さらに翌年の五月には、同じ会場を舞台に「縄文集団論の方向性」をテーマにした第二回例会が開かれ、中山修宏さんとともに発表者となった飯塚さんの報告は、同年十一月の『異貌』第五号に「動的視角としての安行期の位相」としてまとめられた。以後、二〇〇一年五月刊行の『異貌』第一九号掲載の「飾られない壼、飾られる甕」に至るまで、飯塚さんが執筆された論文は合計一〇編を数える。
 飯塚さんの活動は、土曜考古学研究会や史館同人など、共同体研究会以外においても活発であり、縄文時代から弥生時代を中心に数多くの問題を提起されることになった膨大な論文と高い業績については、本号に掲載された年譜と著作目録に詳しい。また、飯塚さんの活動がひとり考古学研究という限られた世界に安住するものでなかったことは、勤務先である千葉県野田市教育員会や野田市郷土博物館などにおける、古代史および民俗芸能にかかわる精カ的かつ誠実な啓蒙活動が余すところなく物語っている。
 飯塚さんは療養先の千葉県流山市東葛病院の病床にあっても、なお自らの研究の深化に強い執念を燃やしつづけられていた。本号への掲載を予定しながら、ついに未完に終わった最後の論文の題名は「山陰地方における刻目突帯文土器の生成」であった。腕の骨を折り、自由のきかない体を家族の方々に支えられての凄絶な執筆であった。
 日本考古学に大きな足跡を残して、確かな情熱と批判精神を内に秘めた静かな理論家、飯塚さんは足早に駆け抜けて行った。その駆け抜けた先に、一体、どのような時代、どのような情況が待ち構えているのか。考古学の現在的存立基盤を鋭く問うことになった一九六九年の「平安博物館闘争」が日本考古学の正史から抹殺され、今また「前・中期旧石器捏造事件」の真相が闇に葬られようとしている今日、この三〇年という歴史を私たちはどのように総括すべきなのか。あの時から、一体、何が変わり、何が変わらなかったというのか。そのことを確かめるためにも、私たちは今一度、この混沌とした時代の薄明の中を、手探りで歩んで行こうと思う。


  二〇〇四年五月一日

共同体研究会代表 佐々木藤雄


体裁等:A5版 132ページ 2200円 送料210円
申込先:郵便番号248-0014 鎌倉市由比ガ浜4-6-17-2H 佐々木藤雄気付 共同体研究会宛
郵便振込:00120-5-61640番 共同体研究会


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1〜5号合冊 364ページ 4800円 送料380円

●11号 140ページ 1600円 送料200円
 北関東地方弥生時代後期の竪穴住居跡(2)、韓国隆起文土器論、住居配置の規則性と単位集団の構成、縄文人の死産児、方形柱穴列と縄文時代の集落

●12号 132ページ 1600円 送料200円
 土器型式の時間幅、陳顕明伝徐説、韓国隆起文土器の系譜と年代、北関東地方弥生時代後期の竪穴住居跡(3)、文様系統論の深化に向けて、縄文時代の家族構成とその性格

●13号 124ページ 1700円 送料200円
 桃と栗、小田原式土器再考、縄文遺跡における廃棄行為の復元と試み、和島集落論と考古学の新しい流れ−漂流する縄文時代集落論

●14号 100ページ 1700円 送料200円
 考古科学としての考古学、出土土器量からみた縄文集落規模の比較のためのサイドノート、小田原式土器再考(続)、幻想回帰近江の人麻呂、水野集落論と弥生時代集落論(上)−侵食される縄文時代集落論

●15号 134ページ 1900円 送料200円
 最後の白河型石器、「弥生時代における戦争」に関する一連の論文について、竪穴住居跡のライフサイクルの理解のために、
大越式土器小論、水野集落論と弥生時代集落論(下)−侵食される縄文時代集落論

●16号 68ページ 1300円 送料200円
 外土塁環濠集落の性格、古海式二題、縄紋人の精神世界に関する研究ノート、北の文明・南の文明(上)−虚構の中の縄文時代集落論

●17号 90ページ 1700円 送料200円
 現代考古学の認識論的基礎づけ、縄紋式草創期「か文土器」問題の超克、板橋区四葉地区遺跡縄文時代編追記、北の文明・南の文明(下)−虚構の中の縄文時代集落論

●18号 108ページ 1400円 送料200円
 異系統土器論としてのキメラ土器論−滋賀里遺跡出土土器の再吟味、イエと墓、竪穴住居重複関係の研究、スリー・ランカ古代土器の基礎的把握、縄文的社会像の再構成−二つの「新しい縄文観」のはざまで

●19号 70ページ 1900円 送料200円
 安斎正人「前期旧石器捏造問題に関する私見」、山村貴輝「藤村新一事件の所感」、佐々木藤雄「日本考古学が火だるまになった日」、周東一也「基底文化論小考」、飯塚博和「飾られない壺 飾られる壺」、佐々木藤雄「環状列石と地域共同体」

●20号 128ページ 2200円 送料240円
 谷口康浩「縄文早期のはじまる頃」  大塚達朗「いわゆる顔面付土版の再評価」 小林謙一「南久和『編年-その方法と実際-』」 桐原 健「縄文中期中葉土器の縄文」 山村貴輝「藤村新一事件のその後」 周東一也「アジアにおけるボランティア的概念の発生とその展開」 佐々木藤雄「環状列石と環状周堤墓」

●21号 130ページ 2200円 送料240円
 大貫静夫 石包丁は日本海を渡ったか、  大塚達朗 縄紋土器と粘土工芸 「土器型式の細別」の再考、  桐原 健 正面性のある土器の時代、  山村 貴輝 「激動の埋蔵文化財行政」が提起するもの、  百瀬忠幸 中信地域における唐草文系土器の成立と展開 殿村遺跡再考I、  山本典幸 東京都郷田原遺跡の長方形大型住居のもつ社会的な意味、  佐々木藤雄  柄鏡形敷石住居址と環状列石


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